• HOME
  • COLUMNS
  • ぶどう畑発 農家のヨメのカルチャー日記:8【連載コラム】

広告やデザイン、クリエイティブの情報コラム

ニッポンツツウラウラ

ぶどう畑発 農家のヨメのカルチャー日記:8【連載コラム】

桃畑の真ん中で 〜ももはたピクニックライブ〜

東京でのカルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て山梨で半農半ライターをしている世木亜矢子が、山梨カルチャーを連載コラムでご紹介。

桃畑の真ん中で

道の両側も桃畑

道の両側も桃畑

「ももはたぴくにっくライブ」に出かけました。桃畑の中で、桃月庵白酒の落語とおおはた雄一の音楽を聴くという催しです。会場は、山梨は桃の里・笛吹市一宮、満開を迎えた桃畑の真ん中。ピクニックというよりこりゃ登山だよ〜!と、運動不足気味なわたしは弱音を吐きそうになりながら、山から降りてくる気持ちのよい風に呼ばれるように、上へ上へと歩いて行きます。高台にある畑からは、遠くの山々が見渡せます。わたしが住んでいる甲州市塩山も、家の周りは桃畑だらけ。しかし、一宮のこの景色といったら。細い道を県外ナンバーの車がひっきりなしに往来していたのですが、みんなよくこんな穴場を知っているなぁと感心するほどの立地。車を停めた駐車場から30分ほど、なだらかな坂道をてくてくと登って行きます。

 

お日さまの下、あははと大きな声を上げて笑う

桃月庵白酒

桃月庵白酒

ゲストのおふたり、「桃月庵白酒の“もも”とおおはた雄一の“はた”で“ももはた”!」そう気付いたのは開演してから。噺家のような軽妙なトークで場を仕切る、イベントを企画したざぶとん亭風流企画の馬場憲一さんの魅力にやられているうちに、何やら聴こえてきました。おおはた雄一による出囃子で、桃月庵白酒が登場。桃月庵白酒は景色にぴったりな“花見”がテーマの噺を。桃畑での落語だなんて、やっぱり年配の方が多いのかしらなんて思っていたけれど、若いお客さんが声を上げて笑っていたのが印象的でした。お日さまの下、あははと大きな声を上げて笑うって本当に気持ちがいいんです。小さな赤ちゃんがちらほら、家族連れも目立ちました。会場脇の道で、登山者が興味深そうにこちらを眺めています。ぶるんぶるんと大きな音を立てて、バイク集団が通ります。春風がそよぐ中、桃は満開を迎えています。山梨の冬は、とてもとても寒い。だからこそ春のありがたみ、お日さまの暖かみが身にしみるのです。それはきっと植物たちにとっても同じこと。この桃の花たちも、うれしそうに咲き誇っている。生を謳歌するように。桜より濃いピンクの桃の花は、なんだか色っぽく、生の力が強いように見えます。

楽しみ方は自由自在

おおはた雄一

おおはた雄一

落語のあとは、音楽の時間。これまでのわたしの人生、おおはた雄一の歌に何度となく助けられてきたものです。こんなにきれいな桃畑で、大好きな曲『おだやかな暮らし』を聴くことができて、夢心地。春っていいなぁ。外って気持ちいいなぁ。自然って楽しいなぁ。そんなことを思いながら、踊って、飲んで、しゃべって、笑う、至福のとき。何をしても自由。そう、自由なライブ。彼のギターは、ブルースやサンバ、ボブ・ディランや高田渡の曲、そして子どもからおじいちゃんまでみんなが口ずさめる人気の曲まで、自在に奏でます。聴き方も、受け取り方も、噺や曲の解釈の仕方も、自由。野外ライブってなんて自由なメディアなんだろう。

 

 


この“ゆるさ”がたまらなく好き

パスケース

パスケース

高校生のときに初めてフジロックに行ってからというもの、わたしは野外ライブ、いわゆるフェスが大好きです。フジロックというのは、1997年から毎年夏に3日間行なわれている、日本の野外音楽フェスティバルの先駆け的存在。そのフジロックを主催するスマッシュの代表・日高正博さんに、以前インタビューをしたことがあります。そのときに「俺がずっと冗談で言っているんだけれども、フジロックに何度も来ていて、3日間いて1つも観なかったというのが理想だよ」と言っていたんですよ。国内外から参加するミュージシャンたちは蒼々たる顔ぶれで、タイムスケジュールを見ると、このアーティストのステージが見たい、あのアーティストも、とつい欲張ってしまうんですね。しかし会場を何度となく訪れているうちにだんだん、なにもせずにただ会場にいて、あちこちから聴いたことがないような音楽が流れてくる、そんな心地よさの虜に。「リラックスできて、いるだけで楽しい」そう語っていた日高さんの言葉を思い出しました。規模は全く違うけれど、神髄は同じ。そういうフェスの“ゆるさ”がたまらなく好きなんだなぁ。自然たっぷりの山梨での、ゆる〜いライブ。その“ゆるきもちよさ”をたんと味わうことができた、ある晴れた日の午後でした。

————————————————————————————————-
農家のヨメ「本日の一コマ」

ぶどうが芽を出しました。芽かきといって、余分な芽を間引きます。間引いた芽は、てんぷらに!この季節しか味わえない、畑グルメのひとつです。

天に向かってすっと伸びる。植物の素直さ、真っすぐさを見ていると、こころがしゃきんとします。

天に向かってすっと伸びる。植物の素直さ、真っすぐさを見ていると、こころがしゃきんとします。

————————————————————————————————-
世木亜矢子:プロフィール
1980年生まれ、神奈川県出身。カルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て、半農半ライターに。ぶどう農家である夫と「くじら果樹園」を営 む傍ら、ライター/コピーライターとして活動中。夫、小学生のおしゃまな娘、シェパードのようなミックス犬と富士山と南アルプスを見渡す山梨県甲州市塩山 に暮らす。