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ぶどう畑発 農家のヨメのカルチャー日記:7【連載コラム】

音楽が縁をつなぐwater water camelライブ

東京でのカルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て山梨で半農半ライターをしている世木亜矢子が、山梨カルチャーを連載コラムでご紹介。

ふたつの祈りが同時に届いた夜

山梨県出身の3人によるバンド、water water camel。

山梨県出身の3人によるバンド、water water camel。

3月最後の日の夜に、南巨摩郡富士川町にあるanuttaraで行なわれたライブへ行ってきました。演奏者は、water water camelというバンド。以前、夫が持っていた『さよならキャメルハウス』という彼らのアルバムを聴き、すぐに大好きに。公式サイトをこまめにチェックしていたのですがなかなかタイミングが合わず、できれば山梨でのライブに行きたいなぁと思っていたところ、願いが叶いました。しかも会場は、壽命山昌福寺というお寺さんのanuttaraという場所。こちらの住職さんご夫妻とは共通の知人がいて、その知人というのは長野で美しい薪ストーブをつくっているご夫婦なのですが、その長野のご夫婦から紹介されて、行ってみたいと願っていた場所だったのです。ふたつの祈りが同時に届き、ちょっとしたミラクルを感じた夜でした。

 

豊かで心休まる、平和な作品

京都在住のイラストレーター西淑さんによるポストカード。

京都在住のイラストレーター西淑さんによるポストカード。

anuttaraでは同時に「カフェをめぐる」という催しが開催されていて、高知から「歩屋」というアジア料理のお店と「terzo tempo」というコーヒーとお菓子、音楽、高知のみやげものなどのお店がやってきていました。そして京都からはイラストレーターの西淑さんが。anuttaraで個展を開催中で、そのクロージングパーティとして行なわれたのが、water water camelのライブだったのです。water water camelの『おんなのこがわらう時』のイラストを担当されたという西淑さん。彼女の絵は貼り絵でできており、豊かで心休まる、平和な作品でした。そして、食べものや食卓を描いたほっとする作品が多い中ひときわ印象に残った「good morning Mt. yatsugatake」という、八ケ岳が描かれた作品のポストカードを購入。わたしは多いときは月に1〜2度八ケ岳へ行くのですが、地元のひとに「八つの山が連なっているから八ケ岳というんだよ」と教えてもらったとき、なるほど!と膝を打ったのです。これまで富士山以外の山は正直形の区別がつきませんでしたが、それ以降八ケ岳のシルエットがとても身近に感じられるようになりました。ちなみに北岳という富士山に次いで2番目に高い山は、山梨県の南アルプス市にあるんです。自然の風景は見慣れないと全て同じように見えてしまうけれど、青々と茂る山の緑もよく見るといろんな種類の緑色があるように、山の形にだって個性がある。そんな風景が山梨移住2年目にして見えるようになりました。

日常に寄り添う、ちょうどいい音楽

高知アジア食堂「歩屋」の絶品アジア料理。

高知アジア食堂「歩屋」の絶品アジア料理。

そしてこの夜のもうひとつの主役、お料理。歩屋さんの目にも美しく食べておいしいアジア料理の数々が、会場の真ん中の大皿にどーんと盛られています。本棚をバックにしたステージにいるwater water camelの3人と同じ目線で、食べながら、飲みながら、演奏に聴き入ります。water water camelは、山梨県出身の3人によるバンドです。この夜は、齋藤キャメルがボーカルとギター、田辺玄がギターとウクレレ、須藤剛志がコントラバスを担当。やさしい歌声、なつかしい音楽。彼らの雰囲気は、この暖かい場所にほんわりと灯ったあかりの下にぴったり。日常に寄り添う、ちょうどいい音楽。西淑さん、歩屋さん、terzo tempo 、water water camel、そして住職さんたち…… それぞれみんな違う表現をするひとたちだけれど、ぴったりと同じ場所にいる、その不思議。それを縁(えにし)と呼ぶのでしょうか。
やさしい音楽が、人々の心を幸福で満たす

本棚をバックにアコースティックライブ。

本棚をバックにアコースティックライブ。

明るくて暖かい場所に、おいしいごはんとキラキラした仲間、そしてやさしい音楽。望むものなんて他に何があるだろう。幸福過ぎて涙が出そう。この気持ちはなんだろう、そう思ったとき、ホームシックだ、そう気付きました。わたしはある時期、出身地である神奈川の、小さな海辺の町にひっそりと住んでいたことがあります。近所に小さな海の家があって、週末の夜になるとミュージシャンたちが音楽を奏でるのです。どこからともなく仲間たちが集まってきて、ひとの手がつくるおいしい食べものを食べながらやさしい時間を共有する。そんな風に過ごした時間を思い出して、胸がきゅんとなったのです。でもただ海辺の町が恋しいわけじゃない。そこで出会った仲間が恋しいわけじゃない。ここがわたしの新しいホームなんだ。この春、山梨へきてちょうど2年。ようやく山梨がわたしのホームになり始めたんだ。ちょうどそのとき『海沿いの家』という曲の演奏がスタート。見事なシンクロ。音楽が結ぶみんなの縁。音楽の力、というとありきたりな表現だけれど、暖かくやさしい静かな音楽が、ここにいるひとたちの心を幸福で満たすんだ、そう体感した夜でした。

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農家のヨメ「本日の一コマ」

山梨が最も華やぐ季節がやってきました。3月〜4月、桃の里は桃源郷になります。桜の花より少し濃いきれいなピンク色が大地を覆うのです。鮮やかな黄色の菜の花とのコンビが、また格別。

夫の両親は桃をつくっています。花が開くと受粉作業で大忙し。今年もおいしい桃がたくさんなりますように。

夫の両親は桃をつくっています。花が開くと受粉作業で大忙し。今年もおいしい桃がたくさんなりますように。

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世木亜矢子:プロフィール
1980年生まれ、神奈川県出身。カルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て、半農半ライターに。ぶどう農家である夫と「くじら果樹園」を営む傍ら、ライター/コピーライターとして活動中。夫、小学生のおしゃまな娘、シェパードのようなミックス犬と富士山と南アルプスを見渡す山梨県甲州市塩山に暮らす。