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『奇っ怪紳士! 怪獣博士! 大伴昌司の大図解』展@弥生美術館【展覧会紹介】

君は大伴昌司を知っているか――と、書き始めるべきでしょう。
この古典的煽り文句が、どうにも似合う人、大伴昌司。
いつか使おうと思っていたこのキッチュなフレーズを、もう一度ここに堂々と、
まずは照れることなく書き記しておきましょうか。
「君は大伴昌司を知っているか!」

いびつな巨星が生み出した超大な銀河系
大伴昌司は1960年代後半から70年代初頭にかけて、「少年マガジン」誌の巻頭特集をプロデュースして一世を風靡した男、というのがひとまずの人物紹介となりますが、このように書いてみると、そのあまりの単純さにわれながら少々戸惑います。
恐ろしいことに、「ただそれだけのこと」で、彼は当時子どもだったほぼすべての日本人男性の内面世界に甚大な影響を与え、現代日本文化の一方の底流となっているサブカルチャー文脈の創案者となったのでした。
「少年マガジン」は現在と同様、当時も代表的なマンガ雑誌でしたが、巻頭にヴィジュアルな特集を組むのが特徴でした。大伴が企画・構成した「ウルトラマン」シリーズに登場する怪獣たちの”解剖図鑑”は爆発的な人気を呼び、少年たちは単行本化された怪獣図鑑を買い漁ることになるのですが(余談ながら、現皇太子が初めてお小遣いで買った本は大伴の手になる「怪獣図鑑」本だった由)、大伴自身が怪獣を創造したり、お話を作ったりしたことはありません。あくまでも彼は既存の怪獣について「見てきたような嘘」をもっともらしく語り続け、少年たちの精神世界を奇想の麻薬漬けにしたのでした。
興味深いのは、彼は徹底して最後まで解説者であり続けたということです。このような、「ありもしないもの」に一心に投企し、「くだらないもの」の細部に真剣に取り組み、受容者として創造者が構想した以上の世界を作り上げてしまうというスタイルは、後に続くある種の「オタク文化」の標準的スタディを準備したと言えましょう。後のその「オタク文化」は同時発生的に各所で生まれるべくして生まれたとも言えるのですが、凄まじいのは、続く世代に向けその土壌を準備し全体の枠組みを構築したのは大伴ただひとりであったという、まぎれもない事実です。

引きつける細部の重力! 膨張する大伴宇宙!
今回の展覧会で図録の扱いとなっている書籍『怪獣博士! 大伴昌司「大図解」画報』(河出書房新社)をひもといていただくと、私の表現が決して大袈裟ではないことを細部に至るまで理解いただけるのではないかと思いますが、この非常によい出来の書籍の中で、みうらじゅんさんがインタビューに答えて印象的な発言をされています。「大伴さんっていう人は、トラウマを紹介する人だったんですよ」。膝を打つとはこのことなのでしょうが、少年誌の巻頭で、「出羽三山のミイラ特集」だの、「江戸川乱歩の妖異パノラマ館」だの、「円盤人の地球秘密基地」だの、果ては「20世紀最大の犯罪を告発する!──『大虐殺』」などという、どうにも子どもにはオーバースペックなあれこれを、石原豪人、柳柊二、南村喬之、生賴範義、小松崎茂などハイパー・リアリズムの画家たちとタッグを組んで、最後には「少年マガジン」に限らず他誌においても毎週のように連発していたのです。
ただし、ここで重要なのは、これらは決して商業主義的な悪趣味量産物の範疇に分類されるようなものではなかったということでした。単なるセンセーショナリズム、怖いもの見たさの皮相なやっつけ仕事なら、当時も今も、世にいくらでもあふれています。子どもはどれだけ大人たちが本気になって取り組んでいるかを敏感に見抜き、そこに「本物感」を嗅ぎつけます。子どもは子ども扱いを嫌うわけですから、大伴の毎度毎度の全力投球に最も素直に反応したのは彼ら読者たちでした。
現在、東京都現代美術館では「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」展を開催中ですが、すくすくと育った読者たちは、ついにここまでやって来た、という感があります。細部にこだわってこそクリエイティブな仕事は成立するということを学んだかつての大伴チルドレンの先鋭分子は、今やこうして彼の仕事に応えていると言うべきでしょう。もちろんこちらの展覧会も併せて足を運んでいただければと思います。

バラ色の終末というパラレルワールド
弥生美術館の、決して広いとはいえない展示室いっぱいに広げられた各種の大図解のなかに、1969年の少年マガジンに掲載された「情報社会 きみたちのあした」という印象的な一点があります。作りこまれた細部が現在のIT社会をあまりに正確に予想しているのは、驚きを通り越してもはや当然というべきでしょうが、情報化されたバラ色の未来の中にうっすらと「高度管理社会の恐怖」を滲ませるのが大伴流で、もちろんそれは70年安保をピークとした当時の騒然とした世相の反映があるのですが、その内容のいちいちが無駄に詳細な妄想に満ちているのが、少年たちの心の底のそこはかとない恐怖を否が応にもそそるのでした。この特集に前後して「カラー力作画報 世界大終末」という特集なども組まれるのですが、ひとり孤独にバラ色の未来とその世界の終わりを構成し続ける大伴の後ろ姿が、写真で見る彼の仕事部屋にどこか似た、この小さな展示室に見えるような気がしてきます。

暗黒に彷徨い続ける少年飛行士たち
さて先述のように、シンプルな創造行為ではなく、創造物の周辺を巡ることに依拠して何らかの表現をなす、という現今のサブカルチャー的行為の淵源を大伴の業績に見るのは正当ではありますが、まず一世を風靡したその「図解」という方法論はむしろクラシックなグラフィズムであり、本来SFチックな装いをまとったモダンな印象のテレビ映画シリーズであった「ウルトラマン」などのヴィジュアルとは、本来本質的には相容れないものであったというのが実情であったと思われます。大伴の教養の根底にあった西欧怪奇小説、ゴシック小説などの知識が、展示されたそのおどろおどろしい古典的な怪獣解剖図の細部に息づいています。当時の少年たちは、単純な勧善懲悪の、爽快なSF物語であった「ウルトラ」シリーズを見ているうちに、実相寺昭雄監督の確信犯的にシュルレアリスティックな映像表現で魔法をかけられ、テレビを離れても大伴昌司のゴシック・リアリズムの怪奇主義に絡め取られて、二度と帰って来られない薄暗い心象世界の淵に沈められたのでした。少年たちは今もその深い沼の底で、覚めぬ悪夢にうなされています。――そう、わたくしのように……

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『奇っ怪紳士!怪獣博士! 大伴昌司の大図解展 一枚の絵は一万字にまさる』

H P:http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/
会 期:2012年7月6日(金)~9月30日(日)
時 間:午前10時~午後5時(入館は4時30分までにお願いします)
休館日:月曜日
(ただし8/13(月)は臨時開館、7/16(月・海の日)開館、 翌7/17(火)休館、9/17(月・敬老の日)開館、翌9/18(火)休館)
料 金:一般900円/大・高生800円/中・小生400円
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『村山知義の宇宙 すべての僕が沸騰する』展が世田谷美術館に巡回しています。
以前の記事ですが、お読みいただければ幸いです。
コラム記事:『すべての僕が沸騰する 村山知義の宇宙』展@神奈川県立美術館 葉山【展覧会紹介】

『村山知義の宇宙 すべての僕が沸騰する』展@世田谷美術館
H P:http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/exhibition.html