Insights
#002

Session 02
「ブランドの体験価値」を高めるアイデア
リブランディングのケーススタディ

2020.11.05

「既存ブランドの新しい体験価値デザインする」をテーマに行った社内のクリエイターたちによるセッション形式のワークショップをレポートします。

※本ワークショップでは、ケーススタディとして「無印良品」ブランドを取り上げていますが、あくまでケースの素材でありそれ以外の意図はありません。また当社と良品計画社には、現在・過去含め直接的にも間接的にもビジネス取り引きは一切ありません。

「ブランドイメージ」と「ブランド体験価値」は違うのか

——前回のセッションで私たちは、「ブランドの体験性」を3つの条件を満たす体験として考えました。1)人間らしい心の出番がある体験 2)自分に思いがけない変化が起きる体験 3)整合がとれた一貫性のあるストーリーを持つ企業から1)と2)が提供されること という3つの条件です。
今回のセッションでは、既存のブランドの体験性について具体的に考察してみたいと思います。検討材料として無印良品ブランドを取り上げます。私たちにとっても馴染み深いブランドです。まずは、無印良品の体験性を思い付くままブレインストーミングしてみましょう。

齋藤(ブランディング・ストラテジスト):無印良品で買物をすると「どことなく、正しいことをしている」という気持ちにさせてくれると思います。「間違ったことはしていない」感じというか。
岩本(ブランディング・スタイリスト):お菓子なんかも売ってるけど罪悪感なく買える。やっぱり、身体に良い素材を使ったり、環境に優しい取り組みしたりというイメージが定着しているし、「日常生活において、できるだけ良く生きたい」という私たちの想いを汲んでくれているイメージがある。
栗林(ブランディング・デザイナー):デザインがシンプルというのは共通認識だと思うけど、接客態度や店舗空間もシンプル。押しつけがましくない。広告も接客も店舗も過度な売り込みがなく、むしろ寡黙さを感じる。よりリーズナブルに、もっと無駄なく合理的にという企業の姿勢が全体に漂っている。
齋藤:そうかと思えば、突然、「コオロギせんべい」のような昆虫食を発売したり、エッジの立った尖ったブランドのイメージもある。
岩本:その場合でもブランドが饒舌になるイメージはなくて、「ある視座」というか、世界や地球という規模でモノを考えているという企業姿勢の表れが感じられるようになっていると思います。

——無印良品の広告やコミュニケーションにはいつも注目していますし、みなさんのプライベートでもとても身近なブランドですから、比較的ここでのイメージは共有されていますね。
では、その無印良品ブランドの体験価値を高めるというテーマでアイデア出しをしてみましょう。どんなアイデアでいまの無印良品のブランド体験価値を高められるでしょうか。これもあくまで直感的に思い付きでブレインストーミングします。

(以下のようなキーワードがでる:靴を脱がせる/本格的リサイクルステーション設置/製品になる前の素材を展示/サイズ展開を幅広く/食べ物をさらに多国籍化/店内を暗く/マネキンの体系の多様化/フットプリントをパッケージに記載/階段をすべてスロープに/コーディネートのサポート/店舗に木を植える/リユース素材のシリーズ/支払方法を合理化/メイド・イン・アフリカ・シリーズ/すべての表記に点字/木材の原産地表示/MUJI ROOMを店頭展示/無印製品の素材にフォーカスした展示/海の見えるMUJI店舗/裸足で入店/街に突然MUJI ROOM(茶室的な)/映画の製作 など)

齋藤:アイデアを大まかにカテゴライズすると「多様性」「トレーサビリティ」「グローバル」「リサイクル(アップサイクル)」「世界観訴求」という分類ができそう。

<多様性>
マネキンの体型/サイズ展開/階段のスロープ化/表示の点字化
<トレーサビリティ>
素材にフォーカス/木材の原産地表示/フットプリントをパッケージに記載
<グローバル>
食べ物をさらに多国籍化/メイド・イン・アフリカ・シリーズ/
<リサイクル(アップサイクル)>
リユース素材のシリーズ/本格的リサイクルステーション設置
<世界観訴求>
映画の製作/コーディネートのサポート/店内を暗く/MUJI ROOM/海の見えるMUJI店舗/店舗に木を植える
<その他>
裸足で入店(靴を脱がせる)/支払い方法を合理化

岩本:体験性というテーマでも、「グローバル」な視点や、「多様性」「リサイクル」「トレーサビリティ」などの社会を良くする活動の推進といった、ブランドイメージを強化するようなアイデアがそのままパッと出てきますね。
栗林:お二人とも「裸足で入店(靴を脱がせる)」を挙げていますね。これはうまく分類できなくて「その他」になっていますが、「既存ブランドの体験価値を高める」というテーマにすごく合致していると思います。
岩本:そういう意味では栗林さんが挙げた「支払い方法を合理化」というアイデアも、すごく無印良品ブランドらしいと思う。「ムダを省いて徹底的に合理的にする」というのも無印良品の体験性の一つだと思う。
齋藤:広告的なコミュニケーションから醸成されたブランドイメージからパッと思い付いたアイデアよりも、「その他」に分類されてしまうような、「裸足で入店」とか「支払い方法を合理化」とかの身体的なアイデアの方が芯を捉えているというのは面白いですね。

「ブランドイメージ」にとらわれず「ブランドの新しい体験」を考える難しさ

——このアイデアたちから、無印良品のブランド体験を高める施策を考えるとどうなりますか?

齋藤:みなさんの反応が良かったアイデアは「海の見える店舗」と「裸足で入店(靴を脱がせる)」でした。「海の見える店舗」は、「世界観訴求」だけでなくて、「グローバル」とか「多様性」「リサイクル(アップサイクル)」などの連想もあり、今回のテーマのベースフォーマットとして良さそうです。
岩本:「海の見える店舗」で、「素材にフォーカスした展示」を行い、「多国籍な食品」「メイド・イン・アフリカ・シリーズ」を豊富に取り扱い、入店の際にはみんな裸足になっていただく。「支払い」はお客様ご自身がアプリをかざして行うので無人店舗。冗談みたいですが「全部入り」にできますね。
齋藤:冗談でも、私は結構行ってみたいですよこの無印良品の店舗。実際、この店舗を体験したいと思って、購買意欲とは別の思いで人が訪れると思いますよ。
栗林:無条件に気持ちが良さそう。床に寝そべったりしてもいいのかな、なんて勝手に想像してしまう。
齋藤:「気持ち良さ」も無印良品ブランドらしいと思う。無印良品の「海の見える店舗」というだけで、もうありありとそれが目に浮かびます。

「既存ブランドの新しい体験」を考える時に陥る罠について

——「裸足で入店する海の見える店舗」は素敵なアイデアだと思います。でもあえて課題として問いかけたいのですが、「新しい体験」を考えたいのに、「裸足で入店する海の見える店舗」は、どちらかというと、ほぼ現状のブランドイメージを敷衍したものになっていますよね。これについてはどう思いますか?

齋藤:「体験価値を高める」という意味では現状のブランドイメージを敷衍するのは間違いじゃないと思います。それに「裸足で入店する海の見える店舗」もまだまだ「種」のようなアイデアなので、さらに磨き掛けていけば、ラディカルな施策になると思います。立地や施工についての斬新なアイデア、イベントの告知方法や道案内の仕方など、具体化していく中で、これまでにないブランド体験価値を生み出せる施策にできると思います。
岩本:そう思います。ただ、一方で「裸足で入店する海の見える店舗」が「ユーザーインサイト」からの発想ではないのは確かです。無印良品ブランドは、顧客自身にも意識されていないどんな体験価値を提供しているブランドなのか? という視点から考えるとどんなアイデアが浮かぶだろう?
栗林:無印良品で買物をしたり、無印良品に気持ち良さを感じるとき、私たちの中では何が起こっていることになるのか?

——例えばこういう感覚はありませんか。私は無印良品店舗に訪れたとき、いつも「ああ、やっぱり間に合わせで買物をするんじゃなかった」と反省したりするんです。とりあえず必要に駆られてネットショップで買ってしまった収納ケースとか、しょうがなく買った好みではないデザインの雑貨とか、自宅の部屋の光景を思い浮かべて、自分の生活を「省みる」ことがあるんです。

栗林:深く反省するとか、大きく後悔するではなくて、ふと振り返る感じ。お正月のように、気持ちを新たにして姿勢を正すみたいな。
岩本:「省みる」を無印良品ブランドの体験性の一つだとすると…。
栗林:「終活」関連商品とか…。
齋藤:なるほど。ハレの場を彩る商品より、静謐さを感じる商品のほうが無印良品ブランドらしい気はします。

——確かに、無印良品ブランドには、華やかな「出産祝い」とかポップな「誕生日祝い」とかよりも、「終活ノート」とか「遺影の額縁」とか、極端にいうと「棺桶」とか「仏壇」とかのほうがコンセプトに合っている気がします。

岩本:社会への批評性を持っているブランドでもありますからね。そういう意味では「死」の在り方を見つめるという姿勢は無印良品ブランドの体験性としておかしくない。
齋藤:ただし、それもまた、キャンペーン的ではありますよね。無印良品ブランドの「体験価値を高める」あるいは「新しい体験価値」を生み出す、というテーマに応えるアイデアとして、「終活」や「死」にまつわる商品を開発する、というだけではいまひとつ答えになっていない。ブランドの尖ったメッセージを伝えるためのある種の話題づくりに留まる気がします。
栗林:本来、私たちアートアンドサイエンスの「ブランド体験価値」の生み出し方は、5BSというフレームワークに体系付けられていますよね。それに沿って考えると、まずそのポイントは、「探究テーマ」を定めること。企業が顧客とともに探究する「問い」を明確に言語化すること。そのうえで、共にその「問い」を探究してくれる顧客への約束としてブランドビジョンを掲げ、ブランドビジョンを達成するプロセスにも顧客が満足できるよう体験価値を日々提供していくという構造ですよね。やっぱりその通りで、あるピンポイントなアイデアだけでは、ブランドの体験価値を高めることにならないということなのではないでしょうか。
岩本:「既存のブランドイメージから体験価値を高めるアイデアを考える」という場合は、ブランドとしての整合性も保たれているし、ブランドの世界観が強化されるわけだし、ある意味ではブランドの体験価値を高めることができている。でも、「新しい体験」となるかどうかは心許ない。
一方で、「ユーザーインサイトから体験価値を高めるアイデアを考える」という場合は、確かに新しい体験価値を生み出せるかもしれないし、顧客の潜在的な欲望に応えているかもしれないけど、「ブランドの体験価値」として新しいと言えるかどうかこれも心許ない。
齋藤:なるほど。これは、私たちアートアンドサイエンスのコアメソッド5BSのポイントでもありますね。

私たちは従来の企業と顧客のコミュニケーションを以下のようなタイプに分類しています。

<企業が知っている価値>×<顧客が知っている価値>=コミュニティ・ファンづくり施策
<企業が知っている価値>×<顧客が知らない価値>=差別化・広告的訴求施策
<企業が知らない価値>×<顧客が知っている価値>=インサイト・マーケティング施策
<企業が知らない価値>×<顧客が知らない価値>=探究テーマ型施策

企業も顧客も同じ価値を共有して育む施策を「ファンづくり」、企業から顧客へ情報を伝える施策を「差別化・広告的訴求」、企業が顧客から情報を得る施策を「インサイト・マーケティング施策」と呼んでいますが、そのどれも「ブランディング」の施策としては矛盾を孕んでいて、長期的には破綻してしまうことがある。そこで、これからの「ブランディング」とは企業も顧客もお互いに知らないことを共通テーマとして探究していく施策であるべきだと考えたのが5BSというブランディングの新しい体系です。

岩本:私たちが今回行ったアイデア出しで感じた限界は、まさに「コミュニティ・ファンづくり施策」と「インサイト・マーケティング施策」の限界ということですね。
齋藤:もちろん、この二つの施策も場合によってはとても有効で、売上貢献やPR効果、顧客単価やロイヤリティの向上などに具体的な成果を発揮することが十分できると思います。しかし、「ブランディング」という観点で厳密化すると、矛盾や不整合を生じることが起こりやすい。
栗林:つまり、それが、ブランディングなのか、ファンづくりなのか、マーケティングなのか、あるいは広告戦略なのか、曖昧な認識で取り組むと、プロジェクトの途中でそれぞれの目的が干渉し合って破綻してしまう。正直実際のプロジェクトでも身に覚えがありますね。これがブランディングのプロジェクトが頓挫しがちな原因の一つなのかもしれません。

「顧客接点」と「ブランド体験」の差異と関係をデザインするとは

——前回のセッションで『体験未満の「顧客接点」をブランドのコミュニケーション全体の中でどう捉えて設計するか。言い換えると、「顧客接点」と「体験性」の差違と関係のデザインをどう行うか』という課題が出てきましたが、そのあたりと絡めてどう感じますか? 「ブランドの体験価値」をピンポイントに点で考えることはできないということも、関連しますよね。

栗林:少し話が逸れるかもしれませんが、このセッションを行っていて、一つ思い出したことがあったんです。以前、ある商業施設の中の比較的小さな無印良品の店舗に訪れたとき、BGMの音楽が随分大きな音量だったんですよね。
齋藤:それって、このセッション中に思い出したんですか? つまり、店舗を訪れた時にはあまり気にならなかった?
栗林:そうなんです。このセッションで、無印良品ブランドの洗練されたカッコイイところばかり想起しがちだったのですが、ふと「あれ、でもあの店はそうでもなかったな」と。
岩本:実際、旗艦店での無印良品の体験と、店舗網の末端の小さなお店ではブランド体験は異なりますね。もっと言えば、コンビニにだって無印良品の商品はあるわけで。
齋藤:だからブランド体験を提供すべき旗艦店のような空間とは異なり、あくまで体験未満の「顧客接点」として、購買体験やブランド体験にマイナスをもたらさないということを重視すべき空間があるということですよね。そこではむしろ、「支払いの合理化」や「サイズ展開を広げる」とかの利便性のほうが大事。より厳密に言うと、利便性の追究と言うよりも、不便さによってブランドの体験性を毀損=マイナスしないことがなにより大事。
栗林:ECサイトでのオンラインショッピングではまさにそれが最重要ですね。
岩本:そう考えると、「裸足で入店できる海の見える店舗」アイデアも、いわば旗艦店と同じ役割として、あくまで圧倒的なブランド体験ができる空間として捉えるべきですね。そうなればあながち単なるPR目的のキャンペーン企画とも言えない。
齋藤:その「裸足で入店できる海の見える店舗」と、体験未満の単なる「顧客接点」である小規模店舗や個別商品の関係性をどのようにデザインするか、というところがポイントになると。
岩本:それが5BSでは、「タッチポイントデザイン」のメソッドなわけですよね。
齋藤:はい。そうです。ただ、これも今回の気付きですが、「タッチポイントデザイン」というと、どうしても「顧客接点」をスムーズに繋ぐことや「カスタマージャーニーマップ」で改善点を探すことに力を注いでしまいがちなんです。特に、既存のタッチポイントをベースに考察する場合にその傾向があるので、今回のセッションで浮かび上がった課題や気付きをもとに、「タッチポイントデザイン」において「顧客接点」と「ブランド体験」をどう関連付けていくか、どう意識的に「メリハリ」をつけるのか模索していきたいと思います。
岩本:ブランディングという観点で顧客接点(タッチポイント)をデザインする重要性があらためて認識できました。

2020.10.19 @アートアンドサイエンス代々木本社オフィス

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