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広告やデザイン、クリエイティブの情報コラム

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『宝島社の広告について』広告をさかさまから考える Vol.1

この広告の「オリエン」ってどうなってるの?
印象的なクリエイティブに出会うと、なんだか居ても立ってもいられないような気持ちになる経験は誰しもしたことがあるでしょう。同時にどういう発想やアイデアでこれが作られたのか、憧れとともに思いを巡らせることもあるでしょう。
そしてそれがもし「広告」なら、わたしの場合さらに「これってクライアントはどういうオリエンをしたんだろう?」と考えてしまいます。これはいわゆる職業病かもしれませんが、優れた広告であればあるほどその疑問が強くなるのです。
ここでは、あくまで「勝手に」妄想を働かせ、この広告はきっとこんな「オリエン」が行われたに違いないと“広告を逆算”していくことで、クリエイティブのアイデアや発想力を強化していく試みとしたいと思います。
積極的な誤読がその広告のもつ潜在力を高めることもあるのですから、ここは思い切って独断と偏見で想像力を働かせたいと思います。

宝島社の広告をさかさまに考える

2011年9月2日の全国紙(朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、日本経済新聞、日刊ゲンダイ)に見開き30段で掲載されたマッカーサー元帥の写真を使った宝島社の広告が話題を呼びました。
「いい国つくろう、何度でも。」というコピーが、1945年8月30日連合国総司令官のダグラス・マッカーサーが厚木飛行場に降り立つ写真を背景にレイアウトされているという、デザイン的にはさしたる特徴のないクリエイティブです。
「政府の皆様。本気で革命やってもいいですか。」「国会議事堂は、解体」「日本の犬と、アメリカの犬は、会話できるのか。」など、数多くの挑発的で政治色のあるコピーワークで、これまでにも話題を振りまいてきた宝島社の広告ですから、さもありなんという印象をもった人も多いことでしょう。「おじいちゃんにも、セックスを」「男たちのタマは、どこへ行った。」など、性にまつわる刺激のあるメッセージも数多く発信してきた宝島社の広告ですが、それにしても今回の広告ほど賛否両論を巻き起こしたものはないのではないでしょうか。

掲載後、すぐにネットを中心に反響は拡がり、インパクトを評価する声もありながら、どちらかというと批判的なコメントが目立ったように感じられます。東日本大震災からの復興をテーマにしていることは自明なものの、その意味深長なクリエイティブは「3.11は『敗戦』なのか」「『外から来る人』が仕切らないと何もできない国の皮肉か」などの論議を呼んで少なからず批判を受けている場面もあるようでした。

凄い広告を生み出した「オリエン」をさぐる
わたしはこの広告はもの凄い広告だと思います。ちなみにわたしも弊社も、宝島社とADKにはまったく関係がなく(残念ながら…)面識すらありませんが、率直な感想として尊敬に値するクリエイティブだと思います。
この広告が発する一見混沌としたパワーは、あきらかにクリエイターによってコントロールされたものであり、話題性だけを狙って乱暴に放り投げられたような野蛮なクリエイティブでは決してありません。
広告の持つ大きなパワーの源は、まだ言語化されていない集団的無意識を顕在化させる、という作用にあると思います。広告のもつ非言語的なパワーをこれほど意識的に洗練されたかたちで提出されたことに、わたしは他の数多くの名作広告に触れたときの印象に勝るとも劣らない深い感慨を憶えました。
では一体なにが凄いのか。おそらく「オリエン」の要件定義、もっと分かりやすくいえば、この広告のクリエイティブ上のゴール設定がずば抜けて優れていたのだと思います。

この広告のコミュニケーションゴールはどこなのか
まず極めて一般的に想像すると、普通は、“この震災にあたって、宝島社は単なる「日本がんばれ」に終わらないメッセージを発信したい”という程度の主旨のオリエンがクライアントサイドから始まります。で、これまた一般的な制作サイドの反応としては、“ですよね。これまでのユニークな広告路線は重要な資産です。ここでもありきたりではない宝島社ならではの日本再建メッセージを発信しましょう”なんていうふうにやりとりが行われます。大抵の場合、ここからクリエイティブの発想がはじまり、具体的にイメージに定着させていくのですが、多分今回の広告のようなクリエイティブのためには、そんなものではまだまだゴール設定の共有が足りません。上記のような状態で制作を進めていっても、せいぜい“がんばれと言わない”“むやみな倹約を呼びかけない”という程度の禁欲的な美徳しかない、雰囲気だけの広告になるのが関の山でしょう。もしくは、子供、動物、扮装したトップクラスのタレントなどの話題先行型の大衆迎合的なアイデアしか実現しないでしょう。宝島社の2011年の広告は、それらとは本質的に次元が違います。あえて“○○しない”などという、ゲームの規則を知る者たちが、目配せで相互評価するようなステージを全く目指していないからです。
では、“○○しない”という非生産的であるものの、往々にして陥りやすい妥協を乗り越え、ゴールをしっかりと“○○する広告”と定義づけることができたのは、そもそもどういう“○○”によるものでしょうか。

この宝島社の広告は一体なにを目指して作られたものか
わたしは、この広告のコミュニケーションゴールはずばり“日本を奮い立たせる”ことだと思います。しかも、結果的に“日本を奮い立たせること”になればよいというレベルではなく、明確に制作の前提段階からクライアントとそのゴールを共有してクリエイティブに取り組まれたものと確信します。つまり、闇雲な“がんばろう日本”の自己憐憫でもなく、粛清的な倹約ムードでもなく、“震災後、ほんとうに心から日本を奮い立たせるようなメッセージはいったいどういうものだろうか”と検討に検討を重ねて生み出されたコピーとクリエイティブに違いないということです。
「“日本を奮い立たせる”? そんなコミュニケーションゴールなんて、フツーに思いつくよ」と思われる人たちもいるでしょう。実際、当のわたしもそれだけを事後的に聞いても、どこにブレイクスルーがあるのかピンとこないと思います。しかし制作のプロセスにあると、ここまで明確なコミュニケーションゴールを掴み取るのは容易ではありません。クリエイターが最終的に、“つまり今回宝島社はこの広告によって「日本を奮い立たせたい」のですね”と言ってコミュニケーションゴールの確認にいたるまで、どんなに激しい格闘するか想像に難くありません。“誰にどうなって欲しいか”を策定した段階で、企画の半分は終わったようなもの、というと過言があるかもしれませんが、「今回の宝島社の広告は“日本を奮い立たせる”というコミュニケーションゴールでいくぞ」と策定した段階で、ほぼこの広告の成功は約束されているようなものだと思います。そしてこのクリエイティブチームが素晴らしいのは、そこから1mmもズレのない、まったくブレがない強固なクリエイティブを達成したことだといえると思います。

設定したコミュニケーションゴールに正面から向き合う
“奮い立つ”という感情が起こるのは、ポジティブな後押しによるタイミングだけではありません。希望や激励だけでなく憤りや屈辱、自尊心の危機を感じるときや、神経を逆なでされたときにも、人々はおおいに“奮い立つ”のではないでしょうか。“奮い立つ”ということが一体どういうことなのか、そのことにクリエイターが真摯に向き合きあった結果、一見ネガティブに感じられるような感情も、あくまで“元気づける”“励ます”よりも多義的な“奮い立たせる”という心理状態に必須の要素として認めることができたのではないでしょうか。
11年9月2日発売の新聞で「イイクニ」の語呂にかけたコピーには明確に人々の心を一つにするようなストレートなメッセージがあります。一方で使用されている写真には、なにかわれわれに不穏なざわめきをもたらせるような作用があります。「いい国」と「マッカーサー」が同じ次元に並べられたとき、そこには「そうだ!新しい時代が始まる!」という人もいれば、「いい国?これが?何言ってるんだ?全然ダメじゃないか!」という人、もしくは「こんどこそ!」という人もいるでしょう。いずれにしても、「ここからやり直そう、いまこそわれわれがわれわれの手で“いい国”をつくるべきだ」と、人々に(ネガポジに拘らず)作用するエネルギーを与えることに違いはありません。それはエンパワーメントの力、自律的な運動を起こさせる実践的な、人々に行為を働きかけるような広告の力といえるのではないでしょうか。そのメッセージの確かな意味はなんだかよく分からないけれど、とにかく結果として“奮い立つ”という前向きな作用を人々に起こさせる、そんなクリエイティブを実現させる素材モチーフに「いい国」と「マッカーサー」という逸材以外、この広告を見た後はもう思いつきません。

リスクを取ることで信頼を与える
さらにこの広告が凄いのは、というよりも、その前提あってのこの広告の存在感なのですが、それは、この広告が単に大上段に構えて説教をいっているのではなく、積極的にリスクをとっているという点にあります。それがまたマスコミ業界における宝島社のポジショニングを明確にしているということも含めて非常に完成度の高い広告だと思います。リスクとは、批判の対象となる可能性であり、テロを受ける可能性であり、糾弾される可能性です。そのリスクを乗り越えてこの広告を震災後半年で出稿する宝島社の意志決定はやはり凄いと言わざるを得ない。そこには、クリエイティブや広告への根源的な信頼というものがあるし、もっといえばなにより読者への信頼ということが込められているでしょう。語弊があるかもしれませんが、ここには、“決定的に間違っているという可能性もあるけど、それも含めて一度投げかける”というコミュニケーションそのものへの“信”があるように思えます。
そしてこの点がなによりこの広告のあくまで「広告」として優れている点です。つまり、多様な解釈が可能なメッセージを発信しながら、その意外な多様性の発見行為そのものを共有化して発信することが、“世の中にくすぶっているまだ正確に名付けられていない欲望(や感情)”を率先してまるごと摑みだしてみせる宝島社という企業の“企業価値”を高める(この場合企業の存在感を強めるというほうが良いかもしれませんが)「広告」として役割を十分に果たしているからです。

繰り返しになりますが、宝島社の広告が孤高の存在感を出しているのはリスクをとってコミットメントしていくという態度に理由があります。しかしわれわれはその点を無意識に、宝島社という一企業に特有のいわば社風として受け流してしまっていないでしょうか。
企業であれ、公共機関であれ、社会をより良くするために、信念だけを頼りに、あいまいな残余を残すリスキーな表現方法で信頼の交換を企てること、これは安易に看過すべきではない重要な広告コミュニケーションの姿勢だとわたしは考えさせられたのでした。宝島社はこの広告であくまで読者と対話を行っている、そう認めて間違いはないでしょう。この広告は、「つくろう」と呼びかけているように聞こえるものの、実際は問いを発しているのです。だかこそ、宝島社もクリエイティブチームも広告の外では非常に寡黙です。この点も特筆すべきことだと思います。
クリエイターは饒舌になりました。そしてそのためのメディアも充実しています。おそらくこの宝島社の広告を制作したクリエイターにも自らの口で語りたいことは山ほどあるはずです。「いい国」と「マッカーサー」という、これほどのすごい“化学反応”を発見したのですから、その実験プロセスを世間に報告したいと思うのは人情です。ところが、この広告について、クリエイターは判で押したように繰り返し同じ回答をしています。

クリエイターの態度が信念の強度
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敗戦や災害など、これまで幾度となく苦境に直面してきた日本。
日本人はそのつど、不屈の精神と協調性を武器に国を建て直してきた歴史があります。世界のどこを見ても、これほどしぶとく、強い生命力を秘めた国民は存在しないのではないか。そんな気さえするのです。「いい国つくろう、何度でも。」この投げかけを通じて、日本人が本来持っている力を呼び覚ましてみたいと考えました。
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このコメントは宝島社のWebサイトにある本広告の広告意図という項目にあるコメントですが、これと一言一句同じコメントが、宣伝会議10月1日号にも「アサツーディ・ケイ クリエイティブ・ディレクター 藤井徹氏」の談話風コメントとして出ています。また、ニュースサイトが得ているコメントもすべてこのコメントのアレンジです。つまり、このクリエイティブチームは、この広告について最初からこのコメント以外の解説をすることを拒んでいるのです。いまどき、こんなにも自分たちの制作した広告の力だけを信じているクリエイターがいるだろうか、と驚いてみてもけっして大げさではない希有な態度です。これは、間違いなく、クライアントとクリエイティブチーム全員がこの寡黙さあらかじめ約束しているからこそ可能なことであり、その一貫した信念にはほとほと脱帽します。

いずれ、年月が経って、クリエイターがこの広告のことをどこかで語り始めるかもしれませんが、わたしたちは、いまこのクリエイターの寡黙さを最大限敬意をもって受けとめる必要があるように思えます。この広告が呼び覚ます“奮い立つような”感覚を、それと同じくらいパワフルな“問い”で、問いに対してさらにもう一度問いかけるような不断の対話を、ジャーナリズムや政治という存在に実行するべきときなのではないかと思わせてくれる、本当に幾重にもわたって“良くできた広告”なのではないかと思います。

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制作スタッフプロフィール

能丸 裕幸
(株)アサツーディ・ケイ エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター
日本宣伝賞山名賞選考委員
【主な仕事】
明治安田生命保険/ロッテ/ヤクルト本社/自由民主党/AC公共広告機構/特別区競馬組合(東京シティ競馬)/プロミス など多数
【主な受賞】
2003年クリエイター・オブ・ザ・イヤー特別賞/ロンドン国際広告賞/IBA賞/ニューヨーク・フェスティバル/ACC賞/広告電通賞/朝日広告賞/読売広告賞/毎日広告デザイン賞/新聞協会広告賞/日経広告賞等 他

藤井 徹
(株)アサツーディ・ケイ コピーライター/クリエイティブ・ディレクター
カンヌ国際広告祭 2010年日本代表審査員
【主な仕事】
東芝/はごろもフーズ/日本財団/NTTドコモ/環境省/ヤクルト/ACジャパン 他
【主な受賞】
ニューヨーク・フェスティバル/IBA国際放送広告賞/広告電通賞/朝日広告賞/読売広告賞/毎日広告デザイン賞/新聞協会広告賞 他

櫻田 厚志
(株)アサツーディ・ケイ アートディレクター
【主な仕事】
HONDA/東京ガス/SEIKO/パイオニア/東芝/ゴディバ「バレンタインキャンペーン」/カルティエ「偽造防止キャンペーン」 他
【主な受賞】
ADC賞(東京アートディレクターズクラブ賞)/ニューヨークADC賞/広告電通賞/朝日広告賞/読売広告大賞/毎日広告デザイン賞 /新聞協会広告賞他

(上記プロフィールは宝島社のHPから抜粋)

宝島社の企業広告HP:http://tkj.jp/company/ad/2011/

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