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ぶどう畑発 農家のヨメのカルチャー日記:10【連載コラム】

ここがあるから大丈夫、と思える場所

東京でのカルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て山梨で半農半ライターをしている世木亜矢子が、山梨カルチャーを連載コラムでご紹介。

歌おう、感電するほどの喜びを

ポストカードに使われているのは、伊藤桂司さんの作品。

ポストカードに使われているのは、伊藤桂司さんの作品。

ギャラリー トラックスで開催されている「I Sing the Body Electric 歌おう、感電するほどの喜びを」(レイ・ブラッドベリというアメリカの小説家・詩人の短編集のタイトルだそう)という展示を観に行ってきました。ギャラリー トラックスは、山梨県北杜市の八ヶ岳南麓にあるギャラリーです。ある晴れた日曜に、カーナビに住所を入れて塩山の自宅を出発。賑やかな甲府の街を抜けてのどかな野の風景に変わると、八ヶ岳が大きく見えてきます。大きな通りに面してはいないので少し心配でしたが、看板を頼りに迷う事なく辿り着くことができました。事前に予約をすると、オーナーの三好悦子さんによるおいしいランチが食べられるとのことで楽しみにしていたのですが、残念ながらその日カフェはおやすみ。それもあってか訪れたその日の午後はひともまばらで、とても静かで穏やかな時間が流れていました。わたしはかねてからホームページでオブジェや写真などさまざまな展示が行われているのをチェックしていて、今回訪れたのは“20th anniversary Trax Collection”という展示内容に惹かれたからです。コレクションってなんだかベストな作品群を欲張って見ることができるような、初心者がその世界に入りやすいような…… そんなイメージが勝手にありました。しかも20周年とは!良い意味でそんな歴史の古さを感じさせない、フレッシュな雰囲気のギャラリーです。

4人のアーティスト

故・木村二郎さんの設計によるギャラリー。

故・木村二郎さんの設計によるギャラリー。

このコレクションに参加しているのは、伊藤桂司、できやよい、KYOTARO、ARUTA SOUPの4人のアーティスト。白をベースとした四角い空間に入ると、鮮やかな色彩やグラフィックが目に飛び込んできました。黒をベースとしたコラージュ、ポルノのイメージや骸骨、クロスなどのモチーフが見られるARUTA SOUPさんの作品。できやよいさんの作品は、キュートでカラフル、花のイメージなど女子的ポップ、しかし恐いくらい緻密な色使いに引き込まれます。KYOTAROさんは、白い紙に黒い線(鉛筆?)でこちらもとても緻密に、神話的な生き物を彷彿させる題材が描かれています。しかし展示方法は、大きな画用紙が一枚ペロリと貼ってある無造作な感じ。伊藤桂司さんは、レコードジャケットをたくさん並べたよう。コラージュを中心に、ポップカルチャーを彷彿させる、気分が明るくなるような作品でした。


八ヶ岳という文化

大きな窓から光が差して、とても気持ちがいい空間。

大きな窓から光が差して、とても気持ちがいい空間。

八ヶ岳エリアは、山梨の中でも独自の文化が発展している土地。別荘があったり、移住者が多いのがその理由のひとつかもしれません。都市部からミュージシャンやアーティストなどさまざまな表現者が集まってきている印象があります。農業についても、塩山のあたりで中心となっている果樹に比べ、無農薬でつくりやすい野菜や米を有機でこだわってつくっている若い農家が多いのも心強いです。クラフト系の作家も多いようで、マーケットなどイベントのチラシを見かけることもしばしば。そして、観光地でもあるためギャラリーや美術館が多いのも特徴。ギャラリー トラックスの北東になる清里の辺りには、オノ・ヨーコが活動を共にしていたフルクサスについての展示が充実している清里現代美術館や、写真家の細江英公氏が館長を務める清里フォトアートミュージアムなど個性的なアートスポットがあります。


トラックスがあるから大丈夫

周りに広がる田んぼ。八ヶ岳はちょうど田植えの時期でした。

周りに広がる田んぼ。八ヶ岳はちょうど田植えの時期でした。

皆さんが住んでいる町には「ここがあるから大丈夫」と頼りになる場所、心のよりどころになる場所はありますか?レストランでも、カフェでも、ショップでも、ギャラリーでもミニシアターでもいい。訪れるひとを魅了するオーナーがいる、ほっと心が休まる、いつでも新しい文化に出会うことができる。ギャラリー トラックスは、八ヶ岳エリアにおいて、そんな場所であり続けていると思うのです。次回はぜひオーナーに会いに、そしておいしいランチをいただきに訪れようと思っています。
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農家のヨメ「本日の一コマ」

ぶどう畑の近くを通りかかると、ふんわりと甘い香りが漂ってきます。ぶどうの花の香りです。ひとつの花の中におしべとめしべが入っていて自家受粉をするので、ひとの手による受粉作業は不要です。

ぶどうの花は、白っぽくてふわふわとした小さな花。

ぶどうの花は、白っぽくてふわふわとした小さな花。

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世木亜矢子:プロフィール
1980年生まれ、神奈川県出身。カルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て、半農半ライターに。ぶどう農家である夫と「くじら果樹園」を営 む傍ら、ライター/コピーライターとして活動中。夫、小学生のおしゃまな娘、シェパードのようなミックス犬と富士山と南アルプスを見渡す山梨県甲州市塩山 に暮らす。