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ぶどう畑発 農家のヨメのカルチャー日記:9【連載コラム】

インデンを買っておうちに帰ろう

東京でのカルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て山梨で半農半ライターをしている世木亜矢子が、山梨カルチャーを連載コラムでご紹介。

山梨が誇る伝統工芸、「印伝」

INDEN NEW YORKのウォレット。ロゴやパッケージのデザインにも注目。

INDEN NEW YORKのウォレット。ロゴやパッケージのデザインにも注目。

わたくしごとですが、4月に誕生日を迎えました。「誕生日プレゼントになにが欲しいか」を数カ月間考え、出した結論が「財布」。そして、次に財布を買うなら「印伝」で!と決めていました。山梨へ越して間もなく知った印伝は、財布を始め名刺入れにストラップ、ハンドバッグなど、ここ山梨で出合う率がとても高い。「みんなが持っているこの革製品はなんだろう?」そう疑問に思っていたのです。その正体は、江戸時代から印伝を作り続けている甲府の「印傳屋」でした。甲府にある印傳屋本店に何度も訪れては下見を重ねた結果、わたしが選んだのは「INDEN NEW YORK」というシリーズのウォレット。印傳を世界に向けて発信することを目的につくられたシリーズで、キーケース、ウォレット、トート、ボストンなど7種類の商品が展開されています。色のバリエーションが赤と黒のみという潔さ、そしてその発色の良さにわたしは一目惚れ。光り輝く黒も捨てがたかったのですが、上品な朱色の漆器を彷彿させる一方で現代的な雰囲気をもつ赤をチョイス。実際、使い始めてひと月近くが経ちますが、柔らかく手に馴染み、とっても使いやすいんです。鞄から取り出すたびににやにや、財布を使うのが楽しみに。使いすぎて散財しないように気をつけないと!

印伝ヒストリー

印傳博物館に展示されている道具の数々。型紙はまるで絵画のよう。

印傳博物館に展示されている道具の数々。型紙はまるで絵画のよう。

印伝とは、鹿革に漆で模様をつけた革の伝統工芸品です。南蛮貿易が盛んであった17世紀に、東インド会社より輸入されたインド産の装飾革に「応帝亜(インデヤ)革」と呼ばれた革があり、印度伝来を略して印伝となったと伝えられているそうです。江戸時代になり、遠祖・上原勇七(名前を踏襲し、現在は13代目)が鹿革に漆付けをする独自の技法を創案し、甲州印伝が始まったと言われています。鹿革も漆も山梨で入手できるもので、特に漆は、わたしが住んでいる甲州市塩山の牛奥のあたりが産地のひとつであったというのはとても興味深いいわれです。そして甲州市と印伝の縁といえばもうひとつ、甲州市にある菅田天神社に保管されている武田家の家宝「楯無しの鎧」に、印伝の技法が見られるそうです。

 

印傳博物館

美濃和紙にパンチで模様をつけて、しおりを作りました。

美濃和紙にパンチで模様をつけて、しおりを作りました。

「印傳屋」は甲府に本店と工場が、そして東京、大阪、名古屋にそれぞれ直営店があります。甲府本店の2階には印傳博物館があり、道具や資料などが展示されています。わたしが訪れたときは「印傳のさまざま―型紙―」が行なわれており、数百種類というストックの中の一部が展示されていました。勝虫と呼ばれた「とんぼ」や勝負に通ずる「菖蒲」の模様は武具などに使われ、成長の早い麻の葉に似ている「麻の葉」の模様は産着や子どもの下着などに使われるなど、伝統的な模様には意味があるんですね。展示内容に合わせて、しおり作りのコーナーがありました。印傳屋で使われている型紙は、伊勢型紙の産地として古い歴史を持つ三重県鈴鹿市白子町に特別注文をしたものだそうです。美濃和紙を柿渋で固めた型紙はなるほど、厚さと張りがあり、独特の香りがします。そして展示されている道具の中でも目を引くのが、大きな「タイコ」。鹿革をそのタイコと呼ばれる筒にはり、下にある窯でワラやマツヤニを焚いて出てくる白い煙で鹿革に乗る茶系の色や模様を出すのです。これは燻(ふすべ)という技法で、なんと日本で唯一ここだけで受け継がれている技法だとか。燻技法で作られた商品はほかと比べて高価ですが、手に取ったときの感触は格別。これはまた、何年後かの自分へのご褒美に。

こんなにも胸がときめくわけ

右端に見えるのが、燻技法で使われる「タイコ」。

右端に見えるのが、燻技法で使われる「タイコ」。

普段それほど革製品やブランド物に興味がないわたしですが、印傳屋に行くといつも時間を忘れて商品に見入ってしまいます。その魅力はおそらく、伝統工芸品ならではの普遍的なデザインにあると思うんです。老若男女誰の手にも馴染むデザインと、手触り。16世紀に生まれた技法が現代に受け継がれているという事実にも、感動を覚えます。手仕事であるにも関わらず、庶民にも買うことができる値段設定。革製品なので使い込むほどに味が出て、愛着もわく。そうするとさらに長く使いたくなる。海外ブランドの革製品にばかり目を向けていてはもったいない!地方には、こんなにも素晴らしい職人の手仕事があるんです。贈り物に迷ったら、山梨の印伝をぜひ思い出してくださいね。

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農家のヨメ「本日の一コマ」

蔓(つる)が伸びると「蔓つけ」という仕事が始まります。巨大ホチキス状の機具を使って蔓をぶどう棚の針金にガッチャン、ガッチャンと留めて行きます。

ぐんぐん伸びる、ぶどうの蔓。開花ももうすぐです。

ぐんぐん伸びる、ぶどうの蔓。開花ももうすぐです。

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世木亜矢子:プロフィール
1980年生まれ、神奈川県出身。カルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て、半農半ライターに。ぶどう農家である夫と「くじら果樹園」を営 む傍ら、ライター/コピーライターとして活動中。夫、小学生のおしゃまな娘、シェパードのようなミックス犬と富士山と南アルプスを見渡す山梨県甲州市塩山 に暮らす。