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ぶどう畑発 農家のヨメのカルチャー日記:5【連載コラム】

ふたりの詩人が紡ぎ出す写真映画『ヤーチャイカ』

東京でのカルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て山梨で半農半ライターをしている世木亜矢子が、山梨カルチャーを連載コラムでご紹介。

“ヤーチャイカ わたしは カモメ”

皆さんは普段「宇宙」について考えることはありますか?自然農を心がけた農業をしていると、おのずと宇宙という言葉に辿り着きます。バイオダイナミック農法(ビオディナミ)なんかもそうですね。バイオダイナミック農法とは、天体から地球上の生命に影響をおよぼしている宇宙的な生態系の原理に従った、ルドルフ・シュタイナーが提唱した農法のこと。知識として仕入れるだけでエッセンスを取り込むまでにはいたっていませんが、娘をシュタイナー幼稚園に通わせていたわたしとしては勉強してみたいと思っている農法のひとつ。さて今回ご紹介するのは『ヤーチャイカ』です。「ヤーチャイカ」がなんであるかわかるという方は、きっとよほどの宇宙好き。「ヤーチャイカ」とは、世界初の女性の宇宙飛行士であるテレシコワが宇宙から地球に向かって発した言葉です。「こちら、カモメ」という意味だそう。そこからタイトルをとった『ヤーチャイカ』は、山梨出身の詩人・覚和歌子が同じく詩人の谷川俊太郎と共同で監督、脚本、編集を務めた写真映画です。宇宙を感じることで静かな感動と温かな気持ちが訪れる、たいへんユニークな作品です。

まるで動いているかのような映像絵本

なにがユニークかというと、全編スチール写真で構成されているのです。その数なんと1000枚!ナレーションと素晴らしい音楽はありますが、俳優によるセリフはナシ。この作品、俳優の演技のうまさなのか、編集のワザなのか、静止画でできた動かない映画とわかっていても不思議なことにまるで動いているかのように見える。写真であることを忘れてしまうのです。物語は、恋人の死をきっかけに東京から移り住んだ小さな村の小さな天文台に勤務している女(尾野真千子)が、都会の生活に挫折して旅を続けている男(香川照之)と出会い、星空にしんしんと向き合ううちに次第に惹かれあうようになる― というもの。70分ほどの作品です。山梨へ住み始める前、夫に誘われ山梨市にあるホールで観たのがこの作品との出会い。監督のおふたりによるトーク、朗読と主題歌『夕焼けは星空の始まり』を作曲した音楽家・丸尾めぐみによる演奏がありました。『ヤーチャイカ』を観て『夕焼けは星空の始まり』が大好きになってしまったわたしは、その後開かれた覚和歌子と丸尾めぐみによるコンサートにも足を運んでしまったほど。

いまいるその場所が宇宙

今回再び観たくなりDVDを購入すると、ブックレットがついていました。真っ白な表紙の、とてもシンプルなつくり。ページをめくると三つ折りのイラストが出てきます。宇宙に浮かぶきれいな地球のイラストに感動!これは映画の中のワンシーンに使われているものです。さらにページをめくると、毛利衛さん、UA、内田也哉子などのコメント、映画のスチール写真、覚和歌子と谷川俊太郎の対談が。おふたりの詩も載っていて、詩集のようにも楽しめる本です。その中の、本作の企画・プロデューサーを務めた中村誠さんによる「不思議な波動」という表現にとてもしっくりくるものを感じました。スクリーンに映し出される静止画のコラージュから、波動とでもいうべきエネルギーを感じられるような気がしたのです。撮影が行われたのは、山梨県北杜市と長野県川上村。山間部独特の冬のきりりとした空気感、そして澄んだ空にすっと立つ白樺の樹々が美しく描かれているのが印象的です。尾野真千子演じる女と香川照之演じる男。陰陽のように対極なのか、それともどちらかが内包されているのか。象徴しているのは人間と自然、地球と宇宙。「ひとり」ということ「いまここ」ということ。「いまいるその場所が宇宙」、そう思わずにはいられない作品です。

まるで映画館のようなプラネタリウム

ブックレットに収められている撮影日誌の中に「山梨県立科学館の好意で貸してもらった大きな天体望遠鏡と三脚」という記述が出てきます。山梨県立科学館は「科学って大人でも楽しめるんだ」と思わせてくれる、甲府市にある素晴らしい科学館。展示物やイベントもおもしろいものばかりなのですが、わたしの一番のお気に入りは、プラネタリウム。それまでプラネタリウムとは「暗闇の中に星を映し出し解説員が星について教えてくれる」だけのものだと思っていました。しかし同館で観た作品は宇宙への好奇心と愛で溢れた映画のようで、プラネタリウムはまるで劇場のよう。他にも、覚和歌子によるフレーズでスタートした宇宙連詩(宇宙や生命をテーマとして一般に公募し寄せられた連詩を国際宇宙ステーションに届けるJAXAの事業)によって完成した『星つむぎの歌』の制作を行なうなど、興味深い試みもしています。この春は、科学館へ星を観に出かけてはいかがでしょうか?

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農家のヨメ「本日の一コマ」

剪定のあとは芽のほんの先端側に専用のハサミで傷をつけ刺激を与える、芽傷つけという仕事。傷をつけられた芽は、本当は枝にいくつかある芽のひとつだけれど、先端の芽だと錯覚してリーダーのごとくぐんぐん芽を出してくれるのです。根っこから吸い上げた目覚めの水が枝を通り、傷から溢れます。

わたしは左利きなので、専用の刃物を見るとうれしくって即買い。これは右利き用です。

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世木亜矢子:プロフィール
1980年生まれ、神奈川県出身。カルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て、半農半ライターに。ぶどう農家である夫と「くじら果樹園」を営む傍ら、ライター/コピーライターとして活動中。夫、小学生のおしゃまな娘、シェパードのようなミックス犬と富士山と南アルプスを見渡す山梨県甲州市塩山に暮らす。