• HOME
  • COLUMNS
  • ぶどう畑発 農家のヨメのカルチャー日記:4【連載コラム】

広告やデザイン、クリエイティブの情報コラム

本の紹介 ニッポンツツウラウラ

ぶどう畑発 農家のヨメのカルチャー日記:4【連載コラム】

若き醸造家による記録『ぼくのワイン』

東京でのカルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て山梨で半農半ライターをしている世木亜矢子が、山梨カルチャーを連載コラムでご紹介。

ワインのふるさと、勝沼

「ぶどうの丘」のタートヴァン(私物)。

ワインの生産地として有名な、山梨。わたしが住んでいる甲州市には、勝沼という一大ワイン生産地があります。ワイナリーの規模は、個人経営の小さなものから大手国産メーカーによるものまでさまざま。観光地の売店はもちろん、街の酒屋や近所のコンビニでもおいしい地ワインを手軽に買うことができるのはうれしい限り。ワインというとちょっとおしゃれな印象、しかしこの辺りでは昔から「ぶどう酒」と呼び、一升瓶のワインを湯のみでぐいぐいと飲んでしまうのです。料理に合わせるときも肉には赤ワイン、魚には白ワインなんてイメージがあるけれど「和食に合うワイン」をうたう勝沼のワインは、お刺身や煮物、鍋物など日常的な料理にもぴったり。10月に「かつぬまぶどうまつり」11月に「かつぬま新酒ワインまつり」「ワインツーリズムやまなし」と、新酒(ボジョレー)解禁前後はイベントづくしで、県内外からたくさんのひとが訪れます。そんなイベントに参加するのも楽しいし、JR中央本線・勝沼ぶどう郷駅からぶどう棚を見下ろした先に見える丘に建つ「ぶどうの丘」のワインカーヴ(地下ワイン貯蔵庫)の見学も、勝沼ワインの歴史がよくわかりおすすめです。専用の試飲容器タートヴァン(1,100円・試飲終了後持ち帰り可)を購入すると、甲州市推奨の約180銘柄のワインを試飲することができます。

『ぼくのワイン』との出会い

書籍『ぼくのワイン』金井一郎、金井祐子(発行:屋上)

今回ブックレビューをお届けする『ぼくのワイン』(発行:屋上)の舞台はおとなり山梨市の、万力という土地。著者である金井醸造場の金井一郎さん、金井祐子さんご夫妻とは、わたしが以前畑仕事の様子を発信しているときにTwitterを通じて知り合いました。昨年、新聞でこの本の発売を知り気になっていたところ、友人と食事をするために入った表参道の「ブラウンライス・カフェ」の本棚にその本を見つけ「これは読まなくちゃ」と山梨に戻りすぐさま購入。(著者の祐子さんは「ブラウンライス・カフェ」の立ち上げをされた方だとあとで知りました。)ぶどう畑で仕事をする一郎さんの写真が目を引くすてきな装丁。ページをめくると畑の写真やかわいいイラストがたくさん。一郎さん、祐子さんのぶどうづくり、ワインづくりの日常が日記のように綴られています。一郎さんがプロとしてぶどうの栽培やワインの醸造について自身の思いや考えを織り交ぜながら説明し、その合間にはおふたりをかたちづくる大切なものについて綴ったエッセイが箸休めのように紡ぎ出されています。

読了後に感じたのは、ぶどうづくりに対するおふたりの姿勢への共感。わたしが夫とともにぶどう畑で見ていること、心がけていることにとても近いものを感じたからです。例えば、ぶどうと会話することや農薬についての考え方。それらは一般的に“こだわり”という言葉で表現されるけれど、そこに含まれるストイックなイメージはあまりなく実際はそうやって“こだわる”ことが、楽しくてたまらない。それはおそらく一郎さん、祐子さんにとっても同じなんだろうなと思います。そして、畑仕事をしていて思うのは、農業というのは想像していた以上に栽培者の個性が出る仕事だということ。一郎さんと祐子さんの畑にも、そして生み出されるぶどうやワインにも彼らのお人柄が出ているのだろうなぁと思いを馳せました。本に登場する、金井家の一男二女についてのエピソードも心温まるものばかり。イヌの「ジロ」「ネロ」、ネコの「メロ」。怪我をした子猫を拾って「メロ」と名付けて家の一員にするくだりを読んでいて、わたしは不覚にも涙目に…!

木をデザインする

書籍『ぼくのワイン』より

金井醸造場でビオディナミの講習会を受けたことがあるわたしの夫がこの本を読んで一番印象に残ったと言ったのは、一郎さんが「畑から戻って事務所で仕事をしていると四列目の真ん中あたりのぶどうがいま病気に感染したと急に思い、気になって見に行くとドンピシャで当たってることがよくあるんだ」と話していたというくだり。そのエピソードにはわたしも心から感服しました。そして、今の季節に行なう剪定という仕事について一郎さんが使っている「木をデザインする」という表現。わたしの夫もよく使う表現です。前回のコラム「本日の一コマ」でも少し触れましたが「剪定作業とは、枝を選別して切ることでその年の枝を調整するとともに、樹液の流れをきれいに分散化すること。」(本文より)です。一番大事な仕事は剪定だというほど、ぶどう栽培の要となる仕事。剪定さえきちんとしていれば、もうやることがない、できることがない。剪定というのはそれだけ奥の深い仕事で、近所のベテラン農家も「一生勉強」と表すほど。しかし周囲の農家を見渡すと、剪定をやる女性というのはとても少ない。男性の仕事というイメージがあるのでしょうか、わたしが畑で剪定をしていると近所のひとに珍しがられることもしばしば。難しいけれどおもしろいのが、この剪定。これを男のひとだけに任せてしまってはもったいない!何と言ったって、デザインですから。農業ってとってもクリエイティブ。そう思う仕事のひとつです。

そして最後に。この本を読むと「金井さんたちがつくったワインが飲みたい!」という感想を持つはず。わたしもこれは飲まなければと思いおふたりに連絡をしていたのですが、お店を訪れたときにはとき既に遅し。「ワインは完売しました」の張り紙が…! 残念ですが、来年の楽しみにとっておくことにします。この本を読んで金井醸造場のワインが飲みたくなったら、迷わずすぐに購入することをおすすめします。
————————————————————————————————-
農家のヨメ「本日の一コマ」

剪定した枝を集めて焚き火をします。そんな日のランチは、ホットサンド。サンドイッチをアルミホイルで包み、牛乳パックに入れて蓋をします。焚き火の中に放り込み、頃合いを見てできあがり。熱々のコーヒーとともにいただきます。

風のない日を選び、畑の一角で焚き火。

————————————————————————————————-

世木亜矢子:プロフィール
1980年生まれ、神奈川県出身。カルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て、半農半ライターに。ぶどう農家である夫と「くじら果樹園」を営む傍ら、ライター/コピーライターとして活動中。夫、小学生のおしゃまな娘、シェパードのようなミックス犬と富士山と南アルプスを見渡す山梨県甲州市塩山に暮らす。