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ぶどう畑発 農家のヨメのカルチャー日記:3【連載コラム】

我らが『サウダーヂ』とstillichimiyaの『桃畑』

東京でのカルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て山梨で半農半ライターをしている世木亜矢子が、山梨カルチャーを連載コラムでご紹介。

パフォーマンスに最適な旅館の大広間

映画『サウダーヂ』より

「山梨文学シネマアワード2013」に行ってきました。今年で3年目になる新しい映画祭のひとつで、今年は竹中直人、高橋惠子などが受賞者として登場。そんな中、新進気鋭の若手映像制作集団として空族(くぞく)がクリスタル・アワードを受賞しました。その受賞を記念して空族制作の映画『サウダーヂ』の上映+トークイベントが甲府市の湯村温泉郷で開催されたのです。会場となったのは、太宰治執筆の宿として知られる「旅館明治」の大広間。前方に宴会舞台があり、その前面にスクリーンが張られています。大広間の畳の上には座椅子が並べられていて、場内どうやら満席の様子。上映中、スクリーンはエアコンの風で揺れ(それに合わせて動画も揺れ)、旅館の方と思われる作務衣姿の男性は寝転がって鑑賞(そのうちイビキ)を始めるなど、脱力感、手づくり感たっぷりの親しみ深いイベントでした。以前、栃木県・那須で開催された「スペクタクル・イン・ザ・ファーム」というイベントに参加したことがあります。とても素晴らしいイベントで、中でも良かったのが旅館の大広間でのミュージシャンとダンサーによるパフォーマンス。「旅館の大広間ってパフォーマンス観るのに最適!」と思ったものです。段差が低い舞台は客席に近く、広間が縦長なので端に座っても舞台が見切れず、客も座ったり寝転んだり思い思いにくつろぐことができる…… などなど、閑古鳥が鳴く温泉街の街おこしイベントに良いと思うのですがどうでしょうか。

何年かぶりに劇場で観た映画が『サウダーヂ』

映画『サウダーヂ』撮影風景より

映画『サウダーヂ』の話に戻ります。この作品、恥ずかしながら未見でした。2011年の公開当時から周囲での評判がすこぶる良く、観たい観たいと思いながらその機会を逃し続け、ようやく掴んだチャンスが今回のシネマアワードでの受賞記念上映。なにを隠そう、山梨は映画館が少ないです。上映作品のラインナップもこういってはなんですが、大したことないです。そして東京でたいへん評判が良い作品が、山梨だとガラガラだったりします。さらに静岡でも長野でも上映する作品が、山梨ではやらないことが茶飯事です。そんなことからわたしも山梨で映画を観ることは稀、小学生の娘にねだられてシネコンに行くくらいになっていました。東京に比べ圧倒的に人口が少ない。だから山梨で映画が盛り上がらないのは仕方がない。そう理解してはいますが「山梨のひとたちはあまり映画を観ないのか?」そんな疑問が常々頭にありました。しかし!『サウダーヂ』は違うのです。観ているひとが多いのです。ハリウッド超大作も、流行りの日本映画も観ていないけれど『サウダーヂ』は観ている。映画館なんてもう何年も行っていないけれど『サウダーヂ』は映画館で観ている。そんなひとが多い印象なのです。なぜ?

圧倒的なホーム感

今回、この作品を観てわかりました。これは「山梨の映画だ」と。山梨のひとたちに「これは自分たちの映画だ」と思わせる要素がたくさん詰まった作品だと。監督をはじめ多くのスタッフ・キャストが山梨の出身。舞台は甲府。それだけでじゅうぶんな気がするのですが、それに加えて山梨のひとたちの心を打ったのが、甲府という街に漂う疲弊感。実際、シャッター通り多いです。週末でもひとがまばらです。飲み屋の盛り具合が寂しいです。駅前のデパートには若いひとがほとんどいないです。疲弊した地方都市の現実。それをスクリーンの中に観ることで、そのことが「自分たちの問題」として心に刻まれることになったのではないか。地元のひとが観ると劇中登場する街の景色がどこであるかだいたいわかります。そして、日常的に使う甲州弁が当たり前のように出てくる。(山梨は山が多い地形なので)ジムニーに乗っているひとがやたら多い。「無尽」と呼ばれるクラス会を(月イチくらいの高頻度で)開いている。飲み会から帰るときには運転代行……。積み重なった小さな山梨らしさが甲府の疲弊感と交わり、圧倒的なホーム感が出来上がっているのだろうと思うのです。

一宮のままで

stillichiyamaのフリースタイル!

上映のあとにはトークイベントがありました。登壇者は監督の富田克也と共同脚本の相澤虎之助。インデペンデント映画とは何ぞやということを丁寧にレクチャーしてくれました。そしてQ&Aタイムに入り「今回初めてこの映画のことを知った」という70代男性から、キャストであるヒップホップ・グループstillichimiyaについての質問が。劇中で聴いたヒップホップに感動した、なんというグループか、どこで聴けるのか、CDはどこで買えるのか。このとき会場にいたんですね、stillichimiyaのふたりが。登壇し、フリースタイルを披露。おじいちゃんも大感激だったことと思います。stillichimiyaは一宮町を拠点に活動するグループで、直訳すると「一宮のままで」という意味。富田監督によると、数年前の市町村合併で「一宮」という名前が失われることに反抗した名前なのだそう。さてそのstillichimiyaのふたり、「『桃畑』という曲があるのでYouTubeで聴いてくれ!」と言っていたのでわたしも自宅に帰って早速チェック。年配のひとでも言葉を聞き取りやすいようゆっくり歌っているんですよ、この曲。あのおじいちゃん、これ聴けたかなぁ。お孫さんに頼んでYouTubeで探してもらえたかなぁ。以前取材したイベントでミュージシャンのShing02が「地方では、あるべき姿で音楽と触れ合っている」と言っていたのを思い出しました。桃の収穫を手伝いながら(実際はどうかわかりませんが)、フリースタイルで地元の宝を表現する。いいじゃないか。がんばれ地方の表現者!思わずエールを送りたくなった夜でした。

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農家のヨメ「本日の一コマ」

冬の間の一大仕事、剪定。新しく伸びてくる枝が光を浴びることができるように枝をすきます。床屋さんが多すぎる髪をすくように。太い枝を切ると切り口も大きいので、乾燥を防ぐためにボンドを塗ります。樹だけに、木工用ボンド。

新しい枝がのびのびと育つように。

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世木亜矢子:プロフィール
1980年生まれ、神奈川県出身。カルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て、半農半ライターに。ぶどう農家である夫と「くじら果樹園」を営む傍ら、ライター/コピーライターとして活動中。夫、小学生のおしゃまな娘、シェパードのようなミックス犬と富士山と南アルプスを見渡す山梨県甲州市塩山に暮らす。