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ぶどう畑発 農家のヨメのカルチャー日記:2【連載コラム】

ほうとうマシーンと山梨県立博物館

東京でのカルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て山梨で半農半ライターをしている世木亜矢子が、山梨カルチャーを連載コラムでご紹介。

山梨県民のソウルフード「ほうとう」

寒い日々が続いています。東京でも珍しく大雪が降りましたね。ここ山梨・塩山では、降った雪がなかなか溶けず、それが凍ってしまい、雪かきもままならないまま次の降雪を迎える……という循環の中にあります。先日、地元のスーパーで「今が一番寒い時期」とシチューの宣伝をしていましたが1月20日頃が大寒なのですね。そりゃあ寒い訳です。スーパーではしきりにシチューを薦めていましたが、山梨県民の冬のソウルフードといえばもちろん「ほうとう」。食べると身体中がぽっかぽか、こんなにも全身が温まる料理をわたしは他に知りません。冬場、娘が通う小学校では月に一度は給食にほうとうが出ます。ほうとうの具といえばかぼちゃですが、給食では「天空かぼちゃ」が入っています。「天空かぼちゃ」とは、塩山のおとなりの町・勝沼の名産品。使われていないぶどう棚を利用してつくられ、空にかぼちゃの実がなるので「天空かぼちゃ」なのです。

パスタマシーンならぬ「ほうとうマシーン」

飾っておいても絵になる佇まい。

「ほうとう」。もちろん、家でも食べます。家で食す際に登場するのが「ほうとうマシーン」です。かなりのアンティークですが、ちゃんと動きます。小麦粉と水でこねて寝かせたたねを適当な大きさにします。パスタマシーンの要領で、機械にくぐらせて伸ばしていきます。伸ばしてぺらぺらになったたねを再度機械に通し、くるくるハンドルを回すと、細く均等に切れたほうとう麺のできあがり!出てきたほうとうは鍋で、出汁、味噌、そして野菜とともに煮込みます。我が家でつくるときはもっぱら土鍋で。具材は、家でとれたかぼちゃ、里芋、ネギなどの野菜に手前味噌。それに豆乳を入れると、マイルドでおいしい。豆乳入りは富士五湖にあるキャンプ場で食べて感激し、それ以来真似しています。そんなほうとう、マクロビオティック料理としても認知されているようで、なるほど出汁を椎茸や昆布でとれば完全に植物性、ベジタリアンでもOK。ちなみに海外生活が長い友人は初めてほうとうを食べたとき「生パスタみたい!」と感動していました。

蔵に眠る古道具の数々

パンを焼くとき、顆粒の天然酵母を量るのに使っています。

ほうとうは『枕草子』にも登場する歴史ある料理。その後、山梨県民のヒーロー・武田信玄が甲州軍団の健康維持のため食べさせたのが甲州名物ほうとうの由来だそう。家で食べるほうとうがおいしいのはもちろん、手軽に本格ほうとうが食べられるほうとう屋があるのも山梨の自慢。「小作」のようなチェーン店も良いし、旅館で食事として出てくるほうとうもおいしい。もし1店、おすすめを挙げるのならば勝沼にある「皆吉」というお店です。有名店のようで、休日には駐車場が県外ナンバーの車で溢れかえっています。雰囲気のよい古民家で、馬刺しや地ワインも楽しめる観光客にはうれしいお店。蔵を改装したほうとう屋さんも近頃ブームのようで、我が家の蔵を見た大工の友人が立派だとほめてくれ「ほうとう屋でもやれし」と言っていました(「やれし」は甲州弁で「やりなよ」という意味)。そう、この辺り一帯の農家同様わたしたちの家にも蔵があります。蔵をちょっとのぞくと昔使っていたであろう古道具の数々が。農薬をはかるのに使っていたはかりや、出荷箱に文字を印字するステンシル。いまやはかりはデジタルはかり。当時のものは料理をするときに我が家の台所で活躍しています。収穫したぶどうを出荷するとき、現在は組み立てた段ボールにシャチハタのスタンプを押すのですが、昔の出荷箱は木箱だったのですね。それにインクで一つひとつスプレーしていたんです。

グッドデザイン賞受賞の博物館

山梨県立博物館(画像は同館所蔵)

去年の夏、山梨県立博物館にクニマスの展示を見に行きました。クニマスという山梨らしいテーマがとても興味深かったのですが、それより心惹かれたのが山梨の歴史が紹介されている常設展。この博物館、そもそも常設展の評判がよいのです。博物館自体も2006年に建築・環境デザイン部門でグッドデザイン賞を受賞しており、一見の価値あり。富士山信仰の広まりや武田信玄が栄えた時代、養蚕から果樹栽培へ移行した産業についてなど、完成度の高いジオラマを使い工夫を凝らした展示内容で、新参者の山梨県民にはとても勉強になります。その展示の最後に、古道具のコーナーが。生活道具に混ざり農業で使う道具が展示してあり、その中に「ぶどう棚で履く下駄」がありました。ぶどう棚というのは園主の背の高さに合わせて設定してあることが多いのですが、それだとときに女性や年配の方など背の低いひとは作業するときに手が届かないんです。そんなとき履くと便利な道具です。ドクター中松のピョンピョンシューズみたいなイメージ。現在はアルミ製のものが売られていて我が家の畑の近くでも履いているおばちゃんをたまに見かけますが、昔はこれも木製だったのですね。博物館の展示コーナーにもあったのです、その下駄が。そして何気なく「寄贈者名」と書いてある札を見るとなんと、うちのおじいさんの名前が!おじいさんはもうぶどう作りからは引退していますが、その家に住んでいるわたしたち、やはりお蔵にはもっとおもしろ古道具が眠っているのでは……と思いを馳せるのでした。

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農家のヨメ「本日の一コマ」

雪が溶けず、なかなか畑へ出られません。こういうときは、保存食づくり。庭の木になったりんごをスライスし、干しりんごをつくります。ぶどう収穫用のコンテナに並べて、縁側で干して。我が家の犬が大好きなおやつです。 

出来上がりは、甘酸っぱくてシャキシャキとした食感。

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おまけ

山梨ネタではないのですが、道具つながりでひとつお知らせが。「D&DEPARTMENT OKINAWA」で2月12日(火)まで、陶芸家であるわたしの妹夫婦が展示を行なっています。長く愛用することができるシンプルなデザインで、軽くて薄くて持ちやすい器です。お近くの方、沖縄へ旅する予定のある方、ぜひお立ち寄りください!

読谷村の北窯で修行を積んだ、井口春治・悠以による初個展です。

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世木亜矢子:プロフィール
1980年生まれ、神奈川県出身。カルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て、半農半ライターに。ぶどう農家である夫と「くじら果樹園」を営む傍ら、ライター/コピーライターとして活動中。夫、小学生のおしゃまな娘、シェパードのようなミックス犬と富士山と南アルプスを見渡す山梨県甲州市塩山に暮らす。