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ぶどう畑発 農家のヨメのカルチャー日記:1【連載コラム】

初めましてのご挨拶、そして田中泯とオオカミたち

初めまして、半農半ライターの世木亜矢子と申します。“せき”と読みます。東京でのカルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て、山梨で半農半ライターをしております。東京から日帰りで行ける身近な観光地、山梨。美食と温泉と自然の宝庫、山梨。しかしまだまだ知られていない山梨カルチャーを、連載コラムで紹介します。

田中泯の珍しいジャガイモ

今回紹介したいのは、舞踊家の田中泯。俳優としても活躍されているので、映画『たそがれ清兵衛』などでのインパクトある佇まいが印象に残っている方も多いはず。そんな田中泯は、山梨県甲斐市の山村を創作活動の拠点としています。さらに、活動の重要な一部として農業にも従事している様子。以前、農家であるわたしの夫が珍しいジャガイモを持ち帰ったことがありました。形や大きさは男爵のようだけど、中はあざやかな紫色。さっぱりとした甘みのある味。そのジャガイモ、田中泯の活動拠点でつくられたものだったのです。なんでも田中泯が、そのジャガイモを在来種で育てているひとにわけてもらったものだそう。夫が持ち帰ったのはきっとそのときのジャガイモの子イモだか孫イモだかだろうと想像するのですが、在来種では収穫したイモを種イモに、大きなものは半分に切るなどして土に埋めるとそこから芽が出てまた新たに実をつけるんですね。F1のものはこうはいかないようなのですが(在来種やF1の話は長くなるので別の機会にじっくり)、つまり我が家では毎年“田中泯が増やしたジャガイモの子孫”を食べている訳です。なんだかうれしい。

ダンス、観たことありますか?

俳優業と農業の活動をされている田中泯ですが、本業は舞踊家です。舞踊、つまりダンスです。ダンス、観たことありますか?わたしは大学在学中に「伊藤キム+輝く未来」というコンテンポラリーダンスカンパニーに所属していたこともあり、ダンスは踊るのも観るのも大好きです。しかし田中泯の舞台はこのたび初めて観ました。映像作品としては以前、横浜トリエンナーレで観たことがあるのですが、そのとき「映像では物足りない!ぜったい生で観てやる!」と奮起した記憶があります。今から2年前に山梨へ引っ越すことになり、山梨で楽しみなこととして頭に浮かんだことのひとつに「田中泯の踊りが観られること」がありました。東京公演もあるようですが、ここはやはり桜座で観たい。桜座では、田中泯が運営に携わっているだけに彼自身が出演する企画ものの舞台が定期的に行なわれているようです。今回観に行ったのは、2012年12月28日に上演された『ニホンオオカミの足跡』。共演はなんと元ブランキー・ジェット・シティの中村達也とジャズピアニストのスガダイロー。豪華です。鼻血が出そうなメンツです(実際、出てもおかしくない熱量でした)。桜座があるのは、山梨県の県庁所在地・甲府。わたしの自宅と果樹園があるのは、山梨県甲州市・塩山。年末も押し迫る夕暮れ、大掃除を途中で切り上げ電車に飛び乗ったその日はなんと大雪。30代半ばの夫が「年内に雪が降るのを生まれて初めて見た」という、珍しく山梨で大雪が降った日です(東京も寒かったそうですね)。JR中央本線各駅停車のレトロな車体に揺られること30分、慣れない雪道に苦労しながら甲府駅から5分ほど歩いて桜座へ到着です。

挑み合い、挑発し合う獣たちのように

桜座ができた場所は元々、ガラス工場の廃墟だった。

桜座というのはNPO法人が運営しているようで、なんというか昔の芝居小屋のイメージを彷彿させ、アングラ的要素を感じさせる空間です。サイトによると、1876年に「三井座」という名で開座(その後「櫻座」と改称)した歴史ある劇場で、いっとき閉座したのち「桜座」として復活。舞台はさほど広くなく客席との距離が近く、1階2階とある客席の1階の半分は桟敷席なのでほんとにもう、舞台上の演者なんてすぐそこです。舞台と客席の段差すらないかも。それも魅力。このたびの『ニホンオオカミの足跡』では上手にドラムセット、下手にグランドピアノ、中央に舞踊スペース。舞台の背景には黒い幕がかかり、荒野にやってくる3匹のオオカミを待ち構えています。まずはスガダイローが登場。真っすぐにピアノに向かい、演奏スタート。譜面はなし。即興で弾くジャズピアノってこういうものか!と、未知の生物のようにせわしなく動く手の動きに目が釘付けになりました。東京にいたとき、とあるイベントでお世話になった荻窪ヴェルヴェットサンで話題になっていたので気になっていたアーティストです。そして泣く子も黙る中村達也。高3の夏、初めて行ったフジロック(驚異の東京ベイサイドスクエア開催)でのブランキー・ジェット・シティのド迫力ステージが今も忘れられません。そんな元BJCの中村達也が登場、ドラムを叩き始めます。もうそのふたりのセッションを観ているだけで身体が凍てつくのがわかります。すごすぎて、身動きできない。演奏の激しさは徐々にヒートアップし、田中泯の登場。彼の身体が動くだけで空間がずしりと重くなる、この存在感は一体なんでしょうか。大柄の身体に羽織を身に着け帽子をかぶり下駄を履き杖を片手に、ドラムとピアノの間、舞うのに決して広くはない空間をしかし軽やかに舞い動いていく。3人のロックな男たちによる、一発触発のムード。まるで挑み合い、挑発し合う獣たちのように。インプロビゼーションのライブ感、即興の凄みに満ちた雄々しさ120%の舞台。そして終盤、印象に残っているのが6本の手です。2本の手は空を舞い、ある2本の手は素手で太鼓を打ち鳴らし、残りの2本は光り輝く鍵盤の上を跳ねている。こんな光景観たことない。鳥肌立ちっぱなしの1時間でした。

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農家のヨメ「本日の一コマ」
我が果樹園のメイン作物であるぶどうの樹々は、ただいま休眠中。春がきて起こしてあげるまで、この状態です。そろそろ枝の剪定を始めないと。でもまずは自宅の庭木の剪定を終わらせなきゃです。

2013年初の大雪。ぶどう棚がつぶれないよう、積もった雪を降ろしてまわります。

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世木亜矢子:プロフィール
1980年生まれ、神奈川県出身。カルチャーウェブマガジン編集/映画配給宣伝の職を経て、半農半ライターに。ぶどう農家である夫と「くじら果樹園」を営む傍ら、ライター/コピーライターとして活動中。夫、小学生のおしゃまな娘、シェパードのようなミックス犬と富士山と南アルプスを見渡す山梨県甲州市塩山に暮らす。