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『ボストン美術館 日本美術の至宝』展@東京国立博物館【展覧会紹介】

「ナントカ美術館」展。いや、振り返れば遙か物心ついた頃から、何度見かけてきた展覧会タイトルでしょうか。お出かけ時、自分は「ナントカのミイラ展」なんかに行きたいような行きたくないような気分でいるときに、結局無駄に教養主義のお母さんに連れて行かれてしまったり――そしてそこは早く駆け抜けて、どうにかしてデパートの上の食堂に行きたかったり――という思い出。一度くらいはありませんか。こう書きつけている現在も、東京では「大エルミタージュ美術館展」が一方で開催中です。そう、デートでも構いませんね。映画と並んで美術展は、オトナな無難な選択でしょう。教育やらオツキアイやらという厄介な課題にとっても、相性は良いものです。その無難な選択には、美術というものの提供する典型的なイメージが介在してします。

「美術館」を超える執念の構造物
話は変わりますが、ボストン美術館の日本美術部門というのは、ひょっとすると美術館という枠内にないものかもしれないな、と思うことがあります。
奇を衒うわけではありませんが、この美術館は後で述べる三人の人物たちの、まなじりを決した強い意志で築き上げられた、巨大で峻険な「蔵」ではないかと思うのです。あるいは、美術という戦場に赴くための「基地」。
コレクションというものの性格はごく個人的ともいうべき事情で形成され、それを基にした世界中の美術館がそれぞれある種の偏りをもって構築されるわけですが、ことボストン美術館において、われわれ日本人は感謝と悔恨の視線をないまぜにしてその偏りを語らざるを得ません。つまりなにゆえこのような驚くべき日本美術の名品群が海外に、いやボストンという一都市に存在しているのか、という驚きと、その完璧な名品保護の姿勢への感嘆、さらにこれだけのものがことごとく国外に流出しているという呆然たる事実。すべては収集時の極端な先見性と、その異常なほどの徹底的な収集量から始まっているわけですが、ことボストンに関しては上記の三人、アーネスト・フェノロサ、ウィリアム・ビゲロー、そして岡倉天心の日本美術に対する執念の結晶であり、これはもう偏りなどという域をはるかに超えた、正面切った日本美術の神殿です。彼らこそが史上初めて日本美術を世界美術の中で正当に位置づけ、評価し、紹介したといってもよいでしょう。

遠く離れて「国の宝」と呼ばれるものたち
フェノロサという名前は、日本史の教科書などでご覧になったことがあるでしょうか。何百年もの間秘仏とされてきた法隆寺の救世観音を無理やり開封させた有名なエピソードから、未開なるものに対して啓蒙的な高みに立った一種鼻持ちならぬ人物のようにも思われるかもしれませんが、実際は近代化を急ぐ当時の日本にあって、多くの寺院が困窮を極める中で貴重な文化財が次々と破壊され、流出する状況を座視できなかった熱意のなせるわざでした。彼の日本美術に対する思いは趣味や道楽といった領域とはほど遠く、その行動は貴重な文化を破壊と湮滅からいかに守るかという求道心に貫かれています。そしてその教えを受けた岡倉は彼の手足となって働き、彼は盲目的な西洋崇拝の風潮の中で軽んじられていた日本美術の復興を図る先鋭なイデオローグとして成長していくこととなります。
さて、のちに東京でフェノロサと知り合い戦線に加わることとなるビゲローとともに、三人は日本美術を守る崇高な志をもってその戦いを繰り広げるわけですが、そこに存在するある矛盾にここで薄々気付かれた方もいるでしょう。つまりフェノロサは明治政府の内部で古美術品の保護および散逸と流出防止の提言を行い、文化財行政に深くコミットするのですが、一方で散逸の防止のためとはいえ、活発な収集活動を行う。ボストンのコレクションはその矛盾の産物でもあり、今回の展観で目のくらむような優品の森を歩きながら、私たちはこれらの国宝級美術品がすべて海外に存在していることに複雑な感情を持つことになるのも事実なのです。
フェノロサたちにとって、売られているものであれば、それは買わざるを得ないものでした。散逸を防ぐ唯一の手段は、散逸しているものを収集すること。それは有無を言わせぬ戦いであり、「基地」として最高の条件を備えたボストンに護送し保護することが正義の実現なのでした。そしてその蓄積は、巨大な「蔵」となり、いつしか神殿の様相を呈し始めたのです。
考えてみると、フェノロサと岡倉たちが優品を集めたのではなく、彼らが構築した近代的な日本美術史という視線を現在私たちが内面化しているからこそ、これらを流出した優品として認識できるのかもしれません。いずれにしろ今、このように神殿の内部を明らかにされてみると、国の内外を越え、まさにただ彼らの努力を多とするほかありません。

立ち尽くせ。これぞ日本美術の金字塔
いささか、ボストンのコレクション成立事情ばかりに踏み込み過ぎました。ともかくも、今回はさりげなく国宝がそこここに並んでいるという事実に、素直に目の眩むような思いを抱きます。展示されている一点ごとが優に一展覧会の主題となり得る、と言えば良いでしょうか。たとえば『平治物語絵巻』の「三条殿夜討巻」など、何度となく繰り返し教科書などの図版で見ていた図像が、今ようやく自分の眼の前にある不思議。奈良時代の奇跡的な仏画『法華堂根本曼荼羅図』が東大寺から千年以上の時を越えボストンに鎮まる数奇さ。なんとも子どものような素朴な感想が思い浮かぶばかりです。人間というものは、あまりに崇高なものに出逢うと、ただ阿呆のようになってしまうものかもしれません。展示最後の部屋で、度肝を抜かれるような奇想に満ちた蕭白の巨大で圧倒的な作品群を見ましょう。これで呆然たる宝物の世界から人間界に舞い戻る爆弾のような元気を注入されます。まことによく出来た構成なのです。
「ナントカ美術館展」で予想されるオールスターキャストは、当然ながら上記の如くこの展観でも実行されているわけですが、しかしながら凡百のナントカ美術館のスターがすべて田舎のヒーローに見えてくるレベル、とでも申しましょうか。それはナントカ美術館展で供されるものに予想される「美術」、そしてそこにある種の無難さを期待されるような行儀の良い「美術」を超え、単なる教養の道具や程の良い鑑賞品などには収まらないものです。この展覧会は、日本美術の名品とは真に歴史の現場を伴って私たちに訴えてくる感動を備えたなにものかであることをひしひしと再確認させるものであり、そしてそこに並ぶひとつひとつの作品の前に立つ折の感動は、等しくあの三人が百年前に感じたものに違いないのです。






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特別展 ボストン美術館 日本美術の至宝

会期:2012年3月20日(火・祝)~6月10日(日)

時間:午前9時30分~午後5時
※ 金曜日は午後8時、土日祝休日は午後6時まで開館
※ 入館は閉館の30分前まで
休館日月曜日 ※ ただし、4月30日(月・休)は開館

会場:東京国立博物館 平成館 [上野公園]

主催:東京国立博物館、ボストン美術館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社

後援:外務省、アメリカ大使館

協賛:損保ジャパン、大日本印刷、トヨタ自動車、みずほ銀行、三井物産

協力:日本航空、日本貨物航空

お問合せ03-5777-8600(ハローダイヤル)

公式HP:http://www.boston-nippon.jp/
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